「出入国在留管理庁(入管)」とは?外国人を雇用する時に注意する点とは?

「出入国在留管理庁(入管)」とは?外国人を雇用する時に注意する点とは?

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日本の入国管理行政は出入国在留管理庁を中心に実施されています。普段の生活で出入国在留管理庁の活動を実感することは少ないかもしれませんが、日本の安全を守り、健全な社会の発展を実現するために大切な役割を担っています。
外国人労働者を雇用する場合には、法制度にのっとった適切な手続きが必要になります。注意点も多く、難しく感じられることが多い入国管理制度ですが、出入国在留管理庁の仕事を知ると、法制度や手続きの意味を理解しやすくなります。
この記事では、出入国在留管理庁の役割と、外国人の雇用時に注意すべきポイントを併せて解説しています。

出入国在留管理庁とは?

出入国在留管理庁とは?

出入国在留管理庁とは?

出入国在留管理庁とは、日本への入国と日本からの出国の管理や、日本に滞在する外国人の管理を担当する行政機関です。現在の出入国在留管理庁は法務省の外局(省の中で独立性の強い仕事を担当する組織)ですが、かつては法務省の内部の「入国管理局」という部署でした。入国管理局が「入管」と呼ばれていたことから、現在の出入国在留管理庁を指して「入管」と呼ぶこともあります。

出入国在留管理庁の役割

出入国在留管理庁の最大の役割は、日本と外国の間での人の出入りを管理することです。多くの日本人にとって身近な例としては、国際空港での入国管理官の仕事があります。
もうひとつの大きな役割は、日本に滞在する外国人への対応です。出入国在留管理庁の報告によると、2022年6月末の時点で、日本に在留している外国人の総数は約296万人でした。この数には、短期滞在の観光客などは含まず、中長期在留者約267万人と特別永住者約29万人を合わせた数です。この在留外国人が法に基づいて適切に日本で活動できるように、在留資格申請などの各種手続きを行うのも出入国在留管理庁の大切な業務です。

出入国在留管理庁の組織

出入国在留管理庁は、出入国に関する政策などの調整などを行う「内部部局」と、日本各地で出入国管理の実務を担当する「地方出入国在留管理局」、そして入管法に違反し退去強制となった外国人を収容する「入国者収容所」から構成されています。

出入国在留管理庁の取り組み

出入国在留管理庁の取り組み

次に、出入国在留管理庁が行っている具体的な業務について解説します。

円滑かつ適切な出入国

出入国在留管理庁の大きなミッションは、日本が安全で安心して暮らせる国であるように、出入国を法律に基づいて適切に管理することです。同時に、多数の出入国をスムーズに行うために円滑な手続きの実現も求められています。2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響によって出入国者数が大きく減少していますが、2019年には3000万人以上の外国人が日本を訪れ、2000万人以上の日本人が出国していました。この莫大な数の出入国者に対して、迅速かつ確実な審査や手続きを行える体制が構築されています。

上陸審査

上陸審査は、日本への入国を希望する外国人に対して、日本への入国を認めるかどうかの審査のことを指します。上陸審査では、パスポートを確認し、滞在目的や期間を確認します。ビザはこの上陸審査に先立って、「入国や滞在を認めることが適当である」という推薦の意味で発行されます。ビザを所持しているからといって必ず入国が認められるというものではないため注意が必要です。

退去強制手続き

偽造パスポートを使って入国した場合や、オーバーステイ、日本国内で認められていない活動を行った外国人などに対しては「退去強制」という手続き(いわゆる強制送還)が取られることがあります。出入国在留管理庁は、このような違法行為の摘発、収容所への収容、強制送還を担当します。

在留外国人の適正な管理と支援

日本に滞在する外国人がそれぞれに認められた範囲で活動し、能力を発揮できるように、出入国在留管理庁がさまざまな手続きやサポートを担当します。

在留資格の審査、在留カードの交付

日本での活動内容や滞在期間を定める在留資格の申請手続きは、出入国在留管理庁に対して行います。日本での就労や就学など、その外国人の活動に応じて適切な在留資格を取得する必要があります。
在留資格などの情報を記載した「在留カード」は、中長期間日本に滞在する外国人が日本国内で行うことができる活動を示すカードです。例えば、外国人が就労を希望する時には、雇用主がその外国人の在留資格を在留カードによって判断できます。

外国人の違反審判

日本に滞在する外国人のほとんどは、日本の法令に従い、ルールを守って活動しています。しかし、残念ながら一部の外国人によって、認められた期間や範囲を超えて活動してしまう事例が起こっています。
法令に違反した外国人の調査や取り締まりを行うのは、入国警備官の仕事です。入国警備官の調査によって違反行為が認められた場合は、収容や退去強制手続きに進むことがあります。その外国人が退去強制の対象かどうかを認定するのは入国審査官の仕事です。外国人は入国審査官の認定に誤りがあると考える場合や、特別の事情を主張する場合には「特別審理官」による審理を請求できます。特別審理官の判定にも異議がある場合には、さらに「主任審査官」を通して法務大臣に判断を求めることができます。
退去強制となれば、その外国人に大きな不利益を与えることになるため、多段階の審査による慎重な判断が行われます。

外国人の出国管理

外国人が日本から出国する時には、出国の確認を受ける必要があります。日本に居住する外国人が一時的に出国するケースなどでは、再入国の許可を受けた上で出国することになります。刑事罰の対象となっている外国人が刑を免れるために出国しようとすることもあるため、適切な手続きが求められています。
また、日本人が出国する場合も、入国審査官から出国の確認を受けなくてはなりません。

入国警備官の業務

入国警備官は、不法入国者、オーバーステイ、不法就労など法令に違反する外国人に対する調査を行い、違反の状況によっては国外に退去させる仕事を担っています。
調査は空港や港で行われるものだけでなく、普段の生活のなかで行われることもあります。裁判官の許可が得られたケースでは強制的な調査も認められます。
調査の結果、違反が認められた外国人は、地方出入国在留管理局などに収容されます。退去強制の審査が行われるまでの間、収容を確実に行うための警備業務も重要な任務です。
退去強制となった外国人をトラブルなく送還するため、入国警備官には外国人を空港などに護送する役目もあります。

外国人への支援窓口

出入国在留管理庁の仕事は外国人の違法行為を取り締まるだけではなく、日本に滞在する外国人の生活支援にも力を入れています。外国人の中には、日本の法令に関する知識が不足している場合や、適切なサポートが受けられず厳しい生活を強いられた結果、やむを得ず違法行為に至ってしまう人もいます。
出入国在留管理庁では、他の行政機関や民間団体とも協力しながら、日本に滞在する外国人や外国人を雇用しようとする事業主に対する情報提供や相談窓口の設置を進めています。
オンラインでの多言語による情報発信も行われていて、出入国在留管理庁のWebページでは、生活や就労に役立つガイドブックが公開されています(出入国在留管理庁 外国人生活支援ポータルサイト https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/index.html)。このガイドブックは、在留資格に関する手続きから日常生活のルールや慣習まで幅広いテーマを丁寧に解説する内容になっています。外国人本人はもちろん、その周囲の日本人(雇用主、同僚、友人)にとっても利用する価値があります。

難民の認定

出入国在留管理庁は、難民認定の申請窓口と審査も担当しています。
「難民」とは、「人種、宗教、政治的信念、国籍などを理由として迫害を受ける可能性があるために国籍国の外にいる人で、国籍国の保護を受けることができないか保護を受けることを望まない人」を指します。
難民の認定を受けると、日本での永住許可を受けやすくなる効果や、日本国民と同様に国民年金、児童扶養手当、福祉手当などの受給資格が得られることになります。難民認定には大きなメリットがありますが、当然ながらその審査は慎重に行われます。2021年に2000件を超える申請があった中で難民と認定されたのは74人でした。

外国人との共生社会の実現

現在の多様性を尊重する価値観の広がりや、人手不足に悩む日本の現状もあって、日本政府は外国人との共生社会の実現に力を入れ始めています。その取り組みのなかで、実務的な役割を担当しているのが出入国在留管理庁です。
共生社会の実現には多角的な取り組みが求められますが、現在のところ在留資格制度の拡充が先行しています。国内の労働力不足を背景として、平成31年4月から「特定技能」という新しい在留資格が創設されました。従来は、エンジニアや研究者のような専門的で高度な技術や知識を持った外国人労働者を中心に受け入れてきましたが、特定技能では、その条件が緩和されています。
特定技能で従事できる業務の分野として、介護や農業を含む12種類の特定産業分野が設定されています。日本人労働者だけでは労働力の確保が難しい業種において、意欲と能力をもった外国人労働者が活躍できる場面が広がっています。
日本に滞在する外国人の数が増えると同時に、外国人へのサポートや日本人の意識を高める活動の必要性も増しています。言語や文化、習慣の違いを原因として、外国人の人権がおびやかされるトラブルも起こっています。出入国在留管理庁を中心に、外国人が日本の行動様式になじみやすくなるような情報発信だけでなく、日本人の人権意識を高める啓蒙活動も進められています。

外国人を雇用する時に注意する点とは?

外国人を雇用する時に注意する点とは?

ここまで、出入国在留管理庁について解説してきました。出入国在留管理庁は、日本国政府の方針や法制度に沿って、外国人が日本で活躍できる環境と安全安心な社会の維持を両立させるため活動を進めています。この背景を踏まえると、外国人労働者を受け入れる事業主が法令や制度を遵守することは、政府が目指す、社会の健全な発展に寄与することでもあると言えます。
次からは、外国人労働者を雇用する事業主が守るべきルールや、注意点について解説します。

外国人雇用状況の届出

外国人労働者を雇い入れる、または離職する時には、ハローワークを通じて厚生労働大臣に届け出をする義務があります。届け出を怠った場合や、虚偽の内容を届け出た場合には、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため注意が必要です。
外国人労働者の就業状況の適切な把握は、外国人労働者の適切な管理の目的だけでなく、様々な政策立案の基礎となるデータとしても重要視されています。

不法就労の防止

外国人労働者は日本の法令に基づいたルールを守って働く必要があります。このルールに違反すると不法就労となり、不法就労をした外国人本人だけでなく、その外国人を雇用した事業主にも厳しい罰則が科せられる可能性があります。
不法就労になるケースには、次の3つのパターンが考えられます。
①不法入国者や許可された期限を超えて在留し「オーバーステイ」となった外国人が就労した場合
②就労が可能な在留資格を取得していない外国人が就労した場合
③在留資格で認められた範囲を超えて就労した場合
つまり、外国人労働者を雇い入れる場合には、その外国人が合法的に日本に滞在しているか、就労可能な在留資格を取得しているか、業務内容は在留資格で認められた範囲内か、の3点を確認する必要があります。その確認に役立つのが、在留カードです。

在留資格と在留カード

在留カードは、日本に中長期間滞在する外国人に対して発行されるカードで、その外国人の氏名や生年月日の他に在留資格に関する情報が記載されています。不法就労を防止する観点では、カード表面の「就労制限の有無」の欄が特に重要です。「就労制限なし」という記載があれば問題ありませんが、「在留資格に基づく就労活動のみ可」や「就労不可」の記載がある場合は働き方に制限があります。

外国人労働者に対するサポート

外国人労働者の就労を通してその生活に密接に関与する事業主は、外国人労働者が日本での安定した生活基盤を構築できるようにサポートしていくことが求められます。生活に不安を抱えていては外国人労働者の優れた能力や勤労意欲が十分発揮されず、期待したビジネス上の成果を得ることが難しくなります。
出入国在留管理庁を中心に、外国人労働者を雇い入れる企業などを対象とした情報発信やサポート体制の整備が進められています。外国人労働者の受け入れに関する知識や経験が豊富な専門家のアドバイスを受けることもできるため、新たに外国人労働者を受け入れる場合や、現状を改善したい事業主にとって心強い味方です。

外国人労働者との共生

かつては、外国人労働者を安価に過酷な労働を行う「都合のいい労働力」とみなす偏見が存在しました。しかし、現在では日本と諸外国の賃金水準の差も縮小傾向にあり、日本は外国人労働者に選ばれる国になれるような努力が求められる状況です。出入国在留管理庁を含む日本の行政機関は、外国人との共生社会を目指してさまざまな施策を行っていますが、行政の機能だけでは限界があります。外国人労働者を受け入れる事業者の一つ一つに対して、外国人労働者が活力をもって生活できる共生社会の実現を推進していくことが望まれています。

外国人労働者とのコミュニケーション

日本に中長期間滞在する外国人にとって、大きな不安要素となるのがコミュニケーションです。言語の違いは、生活に必要な情報の収集や日常的な意思疎通のハードルを高めてしまいます。外国人労働者の言語を理解できる従業員の配置や、外国人労働者が日本語を学ぶ機会を提供するなどの取り組みが効果的です。最近では行政や民間団体によって多言語対応の情報発信も盛んに行われているため、企業独自の負担は軽減されつつあります。

多様性の尊重

外国人には日本人とは異なる文化的背景があります。日本人が日本的な慣習や価値観を重視するのと同様に、外国人には外国人にとって重要な慣習や価値観があります。
外国人を含む多様な人々が生活する現代社会では、多様性の尊重が強く求められます。日本的な慣習を押し付け、外国人がもつ異なる文化、慣習を否定してしまうことが無いように注意が必要です。ハラスメント事案に発展してしまう可能性も十分に考えられるため、経営者による配慮だけでなく、日本人従業員への啓蒙教育を行うなどの全社的な取り組みが重要です。

まとめ

出入国在留管理庁は、日本政府の目指す入国管理行政と外国人との共生社会の実現に向けた活動を行っています。在留資格に関する手続きなどは煩雑に感じることも多いのですが、一つ一つの制度や手続きが、大きな目的の実現のために設計されていると考えると理解しやすくなります。
今後の日本社会の発展のためには外国人労働者の能力に大きな期待がかかっています。行政機関だけでなく外国人労働者を受け入れる事業主も、日本の安全安心の維持と外国人との共生社会の実現を目指して、適切な手続きの履行と、外国人に配慮した取り組みを進めていくことが大切です。

この記事を書いたライター
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佐藤 翔 行政書士、博士(生命科学)

大学教員、大学発ベンチャー企業の取締役を経て独立。 フリーのAIエンジニアとして活動しながら、現在は京都市で行政書士事務所も開業。 外国人人材の獲得や資金調達などの企業支援を中心に活動中。