介護業界で外国人材を雇用する方法や注意点とは?

介護業界で外国人材を雇用する方法や注意点とは?

技能実習特定技能

現在、介護業界では、「2035年問題」を迎えようとしています。
「2035年問題」とは団塊の世代が後期高齢者になる年で、介護を必要とする人口に対して働き手が不足しており 介護の現場だけでなく、経済や社会にも影響をもたらすことが予測され、様々な分野での機能不全が懸念されているのが2035年問題です。 少子化が進み介護を必要とする人口が増えていく問題以前に、介護職の労働環境は厳しく、「きつい」「汚い」「危険」の頭文字をとった3Kと言われており短期離職者が後を絶ちません。 また重労働であるのに関わらず安月給の印象を持たれているため、新卒の採用はもちろん中途の採用も難しい現状です。 人の「採用」と、「定着」において難航しているそんな介護業界で現在注目されているのは在留資格を利用した外国人の採用です。 日本国内で働く外国人はどのように採用されているのでしょうか?その採用ルートについて下記より説明していきます。

介護業界で外国人人材を雇用する方法

介護業界では外国人材の受け入れを進めています。 在留資格を利用して採用するルートは4つあり、それぞれ雇用期間、就労目的等に違いがあります。 4つの受け入れ方法について説明していきます。

EPAの採用

EPA(経済連携協定)とはインドネシア・フィリピン・ベトナムとの経済活動の連携を強化する観点から実施している制度です。 介護業界の人手不足の解消のための制度ではなく、日本の介護施設で4年間、就労・研修をしながら、日本での介護福祉士資格の取得を目標としています。 在留期間は4年で制限が設けられている制度ですが、介護福祉士の資格を取得できた暁には更新に制限がなく、半永久的に日本で勤務することができるようになります。 優秀な人材が多く、介護福祉士になれるフォロー体制も整っているEPAを魅力的に感じますが、残念ながらEPAを利用して来日する外国人は元々裕福な人が多く、帰国する割合が高いです。 EPAの制度を利用して介護福祉士を目指しながら働きにくるものの、2022年度の介護福祉士国家試験の合格率は36.9% と決して高い合格率ではなく、在留資格「介護」を取得できず帰国を余儀なくされることが多い現状です。

留学生の採用

日本の介護福祉士養成学校等へ留学しにきている外国人の方もいます。 専門学校と提携を結んでいる介護施設では、留学生を実習という形で受け入れたり、アルバイトの形態で受け入れられます。 養成学校を卒業すると介護福祉士国家試験の受験資格が付与され、合格すれば在留資格介護を取得し日本で永続的に働くことが可能です。 仮に介護福祉士国家試験に合格できなかったとしても、5年以内に試験に合格するか、専門学校を卒業してから5年間介護の仕事をしていたら経過措置で介護福祉士の資格を取得することができます。

技能実習生の採用

技能実習制度の目的は、日本で学んだ技術を母国へ持ち帰り、母国の経済発展に貢献することを目的とした制度であるため、OJTを通じての仕事となります。 その為、訪問系の業務に対する制限があったり、就労期間が3年だったり、監理団体による監査が3ヶ月に1回あったり、寮の準備が必須であったりと他の在留資格と比較すると制約であったり、しなければならないことがたくさんあります。

技能実習生の採用

特定技能の採用

特定技能は、人手不足解消の為に設けられた制度で、人材確保が困難な分野で外国人人材を受け入れられるようになりました。 EPA、在留資格「介護」のように国家資格の取得を目標としたり、国家資格の所持を要件にしておらず、現場の人材不足を解消できる即戦力となる人材を求めています。 特定技能「介護」で採用する人材は全員即戦力となるのかというと現状断言できない市場ではあり、特定技能「介護」で働く人にも下記のルートがあり特定技能「介護」は玉石混交の市場であると言えます。

現地から特定技能の制度を利用して来日する

試験のハードルがそれほど高くなく、日本語も介護の知識も乏しく、即戦力となると思って採用するも、日本語、介護の知識がそれほどなく現場が混乱することもあります。

技能実習「介護」で働いていた人が特定技能「介護」に移行する

介護に対するモチベーションがあり、日本語も3年もしくは5年学び、日常的に使っているので、即戦力となります。

介護以外の分野で来日していた技能実習生が特定技能「介護」に移行

コロナの影響で帰国できなくなった、働きたかった業界で雇い止めにあった(飲食や、旅行業界)方が介護に流れついていて、介護に対する動機のない人が特定技能介護に移行しているケースもあります。 日本語がよくできても、介護に関する専門知識がなかったり、介護に対するモチベーションがない方が中にはいます。

在留資格「介護」取得者

外国人の方が介護福祉士の資格を取得すると、介護の仕事をしている限り日本で永続的に働くことができます。 外国人の方が介護福祉士の資格を取得するには下記ルートがあります。

  • EPA制度を利用して介護福祉士国家試験に合格する
  • 外国人留学生として介護福祉士養成施設で受験資格を得て試験に受かる
  • 外国人留学生として介護福祉士養成施設を卒業し、経過措置で介護福祉士を取得する
  • 技能実習や特定技能で入国し、介護福祉士受験資格を得て、介護福祉士試験に合格する

在留資格「介護」取得者

外国人人材を雇用する際の注意点

外国人人材を雇用する際は、さまざまなルールや制約があります。これを違反すると外国人人材を雇用できなくなったりするので、注意点を抑える必要があります。

留学生の採用には要注意

留学生の方はアルバイトとして雇用する場合、「資格外活動」の許可を入管から得ているかの確認が必要です。 留学生は働ける時間に制限があり、1週間のアルバイト時間は週28時間以下、長期休暇の場合は40時間以下の決まりがあります。 しかし、留学生は借金をして留学しにきていたりしていてお金に困っていて、お金欲しさに別のアルバイトを内緒で掛け持ちしている可能性があります。 もし、気づかずに雇用していたとしても不法就労がしていることが入管にバレてしまった場合、留学生本人だけでなく企業側にも罰則懲役や罰金といった罰則があります。 また、5年間は特定技能や技能実習生を受け入れることができなくなってしまいます。 検討や準備を重ねた上で外国人採用をしたものの不法就労助長罪に問われてしまうと、人手不足が進む今、外国人の方を採用できなくなり、今までの努力が水の泡になってしまうので要注意です。

カントリーリスク

外国人の方で日本に働きにきている方は日本との経済ギャップがあるアジアの発展途上国や新興国になります。 しかし、かつては発展途上国であったベトナムといった国々は現在、経済発展を遂げており、日本で働くのにも給与が高い都会で働きたいと考える人が増えている他、より経済ギャップが大きい国に出稼ぎに行く傾向があり、日本は選ばれない国になりつつあります。 よって、例えばベトナムの国の方だけを採用していると、ベトナムから日本が選ばれなくなった時に外国人の方を採用できなくなってしまうリスクがあるので複数の国籍の方を受け入れることがリスクヘッジになります。 しかし、複数の国籍を受け入れると、国籍によって文化が異なり、対応が複雑になることや、外国人同士でのトラブルが起こることも視野に入れておく必要があります。

介護福祉士の資格を取得しないと帰国を余儀なくされる

外国人の雇用には、「お金」と「労力」がかかります。 頭数を揃えるためだけに外国人を採用すると、「お金」と「労力」がかかってしまうだけになるので外国人の採用は「長期定着」を重視する必要があります。 介護業界で外国人の方が、日本でずっと働くためには、日本人と結婚して永住権を手に入れるか、介護福祉士の国家資格を取得して在留資格「介護」を取得する必要があります。 技能実習、特定技能の在留資格単体だと最大5年の在留期間です。 外国人の方が、介護福祉士の試験に3~5年で働きながら合格するのは難しいのが現状です。 その根拠として、EPAは、介護福祉士国家試験対策をしながら4年間就労しても、合格率が36.9%です。現地の看護学校を卒業して現地の看護資格を持つ優秀な方でさえも、この合格率なので、5年では時間が足りないと考えられます。 よって技能実習生の時から採用し特定技能へ移行した時間の中で日本語と介護について学んでもらうことはもちろん、介護福祉士の資格取得をサポートしていくことが外国人の方の長期採用につながります。

監理団体の選定ポイント

監理団体とは技能実習生を受け入れ、その活動及び、受け入れ企業へのサポートなどを行う非営利団体です。 監理団体を選ぶ際のポイントは下記2点になります。

介護専門の監理団体であること

監理団体は現在、3,000以上ありますが、農業、漁業さまざまな業種を扱う監理団体が多く、介護専門の監理団体はまだ少ない現状です。 受け入れ企業は外国人を受け入れるのは負担が大きいです。 受け入れ企業が、技能実習生の介護についての指導方法で悩みがあった時には介護に関する専門の知識を持つ監理団体であれば受け入れ企業側の悩みをきちんと理解したサポートが可能です。

介護福祉士合格のサポートがついていること

上述している通り、外国人の方は介護福祉士の資格を取らない限り日本で働き続けることはできません。 そこで介護福祉士の受験対策もきちんとサポートする必要があります。 現場の指導に加えて介護福祉士国家試験のサポートまでするとなると現場の負担が大きくなってしまいます。 介護福祉士の合格に力を入れている監理団体であれば、企業側の介護福祉士の試験対策の負担を減らせることが可能です。

外国人の方に長期定着してもらう為には?

外国人の採用には「お金」と「労力」がかかるので、「長期定着」が重要となると上述致しました。 外国人に長期定着してもらうにはどうしたら良いか、以下より長期定着のポイントを説明していきます。

特定技能に移行時の離職防止が重要

技能実習生の期間は、転職ができないのに対して特定技能は転職が可能です。 技能実習から特定技能に移行した期間も全て働いていたら合計8、10年働くことが可能と思われますが、技能実習から特定技能に移行するときに、より給与の高いエリア、企業に転職しようと考える方が多いことが、長期定着が難しい要因です。 技能実習から特定技能移行時の転職を防止するために、技能実習から特定技能に移行する際に給与をアップさせることを示したり、後々入ってくる外国人の方の指導役、リーダー的存在になってほしいと思っていることを伝える等して、外国人の方が「この企業で長く働き続きたい」と思うよう、モチベーションを上げることが重要になります。 また、自分と同じ国籍の人が多い職場に転職する傾向もあるので、外国人の採用実績を作っていくことは外国人の方にとって働きやすい環境づくりと言えます。

企業側の受け入れ体制を整える

外国人が介護福祉士を取得することは日本での長期的な就労につながりますが、大前提として外国人から「選ばれる企業」であることが重要です。 そのためには、外国人の文化を理解し、「受け入れ」に対する現場の方の不安を無くしていく企業側の取り組みも必要です。 また、外国人の方への指導の統一が必要です。 外国人に限ったことではありませんが、指導されることが人によって違うのは働き手からするとストレスになります。 外国人雇用をきっかけにマニュアルの統一を図ると、外国人だけでなく、既存、新しく入ってくる日本人問わずストレスを軽減したり、長期定着を図ることができる可能性が上がります。 また、日本では働き方改革により、ライフワークバランスを重視し、夜勤に入りたがらない人が増えている中、外国人の方は働くことへのモチベーションが高く、稼げる夜勤に入りたがる人が多い傾向にあります。 夜勤を嫌がる人が多い職場では有難い存在になりえますし、働くことへのモチベーションの高さは同じ職場の日本人にも好影響で、相乗効果を期待することができるでしょう。

雇用形態について

「同一労働同一賃金」の制度ができて、技術移転を目的としてきている実習生だからといって非正規雇用をするのは、技能実習生の方を安い労働力として受け入れようとしているのではないかと思われる可能性があります。 しかし実際、技能実習生は

  • 半年間人員1と換算できない
  • 異動ができない
  • 1年目は夜勤が推奨されていない

上記の制約があるため受け入れ企業の就業規則に当てはめた場合、非正規雇用に当てはまるケースが多いです。 一方、特定技能は原則として正社員、フルタイムでの直接雇用となるため、正規雇用として採用することが必須となります。 技能実習生の時は非正規雇用で採用し、特定技能に移行した時に正規雇用に切り替え、基本給UPと、ボーナスが発生することで自分の施設で長く働き続けるモチベーションを上げることが可能となります。 技能実習生時点で、非正規雇用にすると毎月の手取り額があまりにも少なくなったしまう場合には、寮費や水光熱費を企業側が多めに負担してあげたり、日本語や介護福祉士の勉強の時間を設けて残業代をつけてあげるなどして、まず、この企業に入りたいと思ってもらえるような求人票を作成することもポイントです。

まとめ

介護業界で間も無く迎えようとしている「2035年問題」に向けて、日本の介護施設では外国人の受け入れが今後どんどん進んでいくでしょう。 異文化の外国人を受け入れるのは受け入れ企業側にとって、決して費用がかからないことではないですし、現場にも負担がかかるので外国人の受け入れを成功させる必要があります。 企業内ですべきこと、外国人への対応で留意すべきこと、また、受け入れに際して注意すべきことに気をつけて外国人採用を成功させて介護業界の人手不足解消、企業側、外国人、利用者にとってもwinwinな関係を作り出せるようにしていきましょう。

この記事を書いたライター
mika

mika

現在社会人3年目で介護業界を中心とした外国人人材の採用営業を担当 外国人の採用にあたり、在留資格の知識が必要で猛勉強に励み、外国人採用の難しさを改めて痛感。 外国人をただ受け入れるだけでなく、長期定着させる為にはどうしたらいいかを伝えられたらと思い執筆させていただいております。