外国人技能実習生の失踪を事前に防止するには?具体的な対策を紹介

外国人技能実習生の失踪を事前に防止するには?具体的な対策を紹介

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国内では人口減少と少子化の問題がいよいよ顕在化し、若者の労働力不足が見られるようになりました。
特に製造業や飲食店など、以前から人手不足に悩まされてきた業種では、看過できない状況にまで陥っているケースも見られます。
そんな中、外国人技能実習生は良い働き手として歓迎され、積極的に受け入れる企業も拡大中です。その反面、一定数の失踪者も見られるようになり、社会問題化しているのも事実です。

本記事では、外国人技能実習生の失踪問題について、網羅的に掘り下げています。
外国人技能実習生の受け入れを検討している方は、ぜひ記事内容をご確認ください。

外国人技能実習生失踪の現状

  技能実習生の数 失踪者数 割合
平成30年 424,394 9,052 2.1%
令和元年 517,232 8,796 1.7%
令和2年 494,798 5,885 1.2%
令和3年 401,623 7,167 1.8%
令和4年上半期 382,680 3,798 1%

失踪技能実習生を減少させるための施策

出入国在留管理庁が公表している情報をもとに、外国人技能実習生の受け入れ数に対する失踪者の割合を一覧表にまとめました。
割合を見ると失踪者はおおよそ1%台で推移しています。令和3年からはコロナ禍に見舞われましたが、外国人技能実習生の受け入れ数は多いままです。
割合から見ると少ないようにも思えますが、今後増加する可能性を考えると捨て置け無い現状があります。

外国人技能実習生の受け入れには以下、2つのルートがあります。

  1. 団体監理型
  2. 企業単独型

団体監理型は協同組合や商工会が受け入れを行い、加盟企業に人材を斡旋する仕組みです。
企業単独型では、海外現地法人や合弁企業、取引先企業の職員を実習生として受け入れます。働き手を必要としている企業の多くは中小企業です。海外に現地法人を持っているケースは稀で、多くの場合は、監理団体からの紹介を受けて迎え入れることが多いです。
必要書類など、事務手続きは監理団体や本国の送り出し機関が行います。
2国間の関係者が携わり、それなりの期間を経てようやく日本の企業で働く運びとなる外国人技能実習生ですが、一定数の割合で失踪者が出ています。
希望を持って日本へ向かい、受け入れ先の企業でも歓迎されるはずの外国人技能実習生ですが、何が原因で姿を消してしまうのでしょうか。

技能実習生が失踪する理由と背景

技能実習生が失踪する理由と背景

なぜ失踪してしまう技能実習生が出てしまうのでしょうか。推測される理由は大きく分けて以下の2点です。

  1. 企業側の待遇の悪さ
  2. 実習生の経済的な問題

企業側の待遇の悪さ

技能実習法では不当な待遇を禁止していますが、外国人を安い労働力と見ている企業は一定数存在します。
賃金の未払いや労働基準法、安全衛生法の違反、出入国管理法の違反など、国際問題に発展しかねない内容です。
賃金未払いのケースでは、以下のような内容があります。

  • 約束していた給料を払わない
  • 月給制なのに日給月給扱いにして天候などの理由で休みになった時に減額する
  • 勤務したのに勤務しなかったことにする
  • 拘束時間を何らかの理由をつけて勤務外にする
  • 残業代を払わない、残業代を減額する

賃金未払いを行う企業は、元々外国人技能実習生を下に見ている傾向があるため、人権侵害も横行します。
国籍や宗教、肌の色による差別や暴言、暴力などのパワーハラスメントなど、人権侵害を超えた行為にまで及ぶケースもあります。

実習生の経済的な問題

技能実習生は本国を出る時に、送り出し機関に日本語講習や寮の費用を支払います。中には支払いが100万円にもなるケースもあり、平均月収が低い発展途上国の技能実習生は、借金をして来日するケースも多く見られます。
したがって、日本の企業で稼ぐ金額が思ったより少ない場合、借金返済は滞りがちになるでしょう。

そんな苦境に立たされた実習生へ悪徳ブローカーが声をかけて、もっと稼ぎの良い仕事を斡旋するビジネスが暗躍しています。
実習生の中には渡りに船と感じて、稼ぎの良い仕事に飛びつき、そのまま職場放棄して失踪にいたるというケースもあります。
実習以外の仕事に就くと厳罰に処せられますが、それでもお金のために不法就労に向かってしまうのです。

失踪の前後に見られる予兆と対策を紹介

技能実習生が失踪する直前には、なんらかの変化が見られることが多くあります。変化に気づき、適切な対応を行うことで失踪を防ぐことができるかもしれません。
引き続き技能実習生を受け入れる企業でありつづけるためには、失踪者を出さないように気をつける必要があります。
失踪前の特徴に当てはまりそうな技能実習生を見かけたら、早急に対応しましょう。

失踪前に見られる予兆の参考例

失踪前に見られる行動の変化を以下5点、ピックアップしました。

  1. 仲間も聞いたことがない友達の家へ頻繁に行く
  2. 年末年始でもないのに帰国の申請が頻繁になる
  3. 在留カードの期限を気にする
  4. 態度が悪くなり遅刻が増加、欠勤も増える
  5. お金の無心

このような行動の変化が現れると、心理的に何かしらの変化が起きていることは容易に想像できます。もっとも現れやすい変化は、遅刻や欠勤など、勤務態度の悪化ではないでしょうか。
失踪に結びつく前に心理状態の改善を図り、良い方向へ導きたいところです。

健全化関係性の構築

受け入れ企業と技能実習生との間に距離があるのは問題ですが、近すぎるのも問題です。過度な心配は拘束感に結びつくこともあります。
受け入れ側が心配することは大事ですが、ベンダーである監理団体などを交えて程よい距離感を維持することが重要です。

悩みをヒアリングするときは、出来る限り具体的に聞くようにしましょう。「大丈夫です」「問題有りません」という回答には、どう答えてよいのか分からないという理由も含まれています。
仕事の内容や職場環境、家族のことなど具体性を持った問いかけによって、会話の糸口がつかめることもあります。

監理団体を入れた3者面談を定期的に開く

1対1の対面では言いにくいことでも、受け入れ企業、技能実習生、監理団体の三者面談にて、言いにくいことも話ができる場合があります。
母国語が使えないことで孤立感を深め、失踪してしまうケースもあるため、言語にも配慮した面談を設定するとより実りある三者面談となるでしょう。
仕事上、親しい間柄の人を交えることで、より話がしやすくなるケースもありますので、柔軟な対応を検討したいところです。

出入国在留管理庁による失踪予防施策

法務省の管轄下にある出入国在留管理庁でも、失踪する技能実習生を減少させるための施策を行っています。
失踪防止のために以下の3つの施策が発表されています。

不適切な監理団体などを関与させない

外国人技能実習生を日本で引き受けるのは監理団体です。一般的な良い監理団体のお世話になれば問題ないのですが、残念ながら悪質な監理団体も存在します。
悪質な監理団体は、現地の悪質な送り出し機関と連携しあらゆる名目で、技能実習生からお金を取ろうとするのです。結果、技能実習生は借金のために働き続けるはめに陥ります。

技能実習生は、いつ終わるともしれぬ借金と、思いの外少ない賃金に愕然として失踪、もしくは高額な不法就労を選択してしまう悪循環に陥ってしまう可能性が高いです。
出入国在留管理庁は、悪循環の根本となる悪質監理団体や、失踪者を出した受け入れ企業に対して制度に関与させないための処置をとっています。

実習中の実習生を失踪させないための施策

具体的な施策の内容は以下の2点です。

  1. 失踪技能実習生を雇用した企業への刑事告発もしくは公表
  2. 技能実習生への状況ヒアリングを適宜行う

状況のヒアリングは、当たり前のことに思えますが、政府の意向によって行う点に意味があります。国のバックアップがあるとわかれば外国人技能実習生も心強いでしょう。
失踪者を雇用した企業への罰則は、失踪させないための対策ではないと思いますが、一定の効力は発揮するでしょう。

失踪した実習生を不法就労させない

関係各所との連携を強化し、不法就労ができないようにするための施策です。外国人技能実習生の逃げ場を塞いでしまうようにも見えますが、技能実習生として健全に日本で働いてもらうためには、必要です。

受け入れる企業側で出来ること

技能実習生の失踪を防ぐために、受け入れ企業側での労働環境や住環境の整備も重要です。失踪を防ぐための重要なポイントを以下3点にまとめました。

技能実習生への明確な待遇説明

企業が適正と思われる給料を支払っていても、思っていたよりも少ないと感じる技能実習生は少なからず存在します。
理由は、手取り金額と額面金額を正しく理解していないからと推察されます。技能実習生に待遇を説明する時は、給与から雇用保険や健康保険、年金が引かれることを事前に説明しておきましょう。
寮費や水道光熱費などを給料から差し引く場合は、より丁寧な説明が必要です。最終的な手取り額がいくらになるのか、あらかじめ確認しておくことが大切です。

借金の金額と返済計画を確認

技能実習生は自国の送り出し機関に多額の費用を支払っています。借金によって支払っているケースも多いです。
現時点の借金の金額を確認し、返済計画を立てることは失踪を防ぐために重要です。失踪の原因の一つとしてうまくいかない資金繰りがあります。お金の問題は早い段階で明確にして、協力姿勢を見せることが大切です。

生活環境の充実を図る

失踪の原因は賃金や残業代の未払い、パワハラが原因となることもあります。当然のこととして、給料は決まった日に支払い、働くに相応しい住環境を整えなければいけません。
相談しやすい環境を作り上げることも大切です。労働に問題がなくとも、帰国したくないという理由から疾走してしまう技能実習生も存在します。
何でも話し合える関係性を構築できれば、失踪の可能性を減らすことができるでしょう。

関連機関の選び方

送り出し機関と監理団体は、技能実習生が健全に仕事を行う上で重要な関連機関です。悪質な団体に関わることのないように適切に選択しましょう。

適切な送り出し機関を見定める

適切な送り出し機関を選ぶのは難しいのが現状です。受け入れ側の企業は、監理団体が選んだ送り出し機関を選ばざるをえないため、監理団体が選択を間違えると、悪質な送り出し機関に関わってしまうことになります。
現送り出し機関は健全さのアピールに余念がないため、監理団体としても適切な送り出し機関を選出することが難しくなっています。
送り出し機関のリベートや接待によって、取り込まれる監理団体も存在します。適切な送り出し機関を選ぶには、良い監理団体を見極めるより他に方法がありません。

適切な監理団体を選ぶ

良い監理団体はサポートがきめ細かく、トラブルにも適切に対応してくれます。長年の実績をもつ団体から選ぶと良いでしょう。
監理団体を選ぶときは、優良認定を基準にするとわかりやすいです。
監理団体には優良と普通があります。優良な監理団体は「一般監理事業」、普通の監理団体は「特定監理事業」と呼ばれます。
審査基準はポイント制となっており、優良認定を受けるには一定の水準をクリアしなければいけません。
規定の点数を満たさなければ優良認定は取り消しになります。国の審査基準は厳しいため、優良認定を獲得している監理団体は信頼して良いでしょう。

まとめ

多くの外国人技能実習生が日本で活躍する一方で、毎年失踪者が出ている現状があります。失踪した外国人技能実習生は、劣悪な環境での労働や犯罪に巻き込まれる可能性があり、見逃せない事象です。
失踪を防ぐためには、適切な関連団体の選択や受け入れ時の対応が大切です。全体で適切に受け入れることができれば、次第に失踪者の数は減少へと向かうでしょう。

この記事を書いたライター
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カナエル運営事務局

外国人材に関わる方向けに情報を発信する総合メディア「カナエル」の中の人です。 外国人採用をはじめ、特定技能・技能実習に関する有益な情報を発信します。